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有生子のエッセイ

焦げたご飯

2020/10/26(月)
金曜日、うっかりご飯を焦がしてしまった。

わが家は小さな鍋でご飯を炊くのだが、強火のまま、沸騰した後で弱火にするのを忘れ、
気づいたときには鍋底にお焦げがびっしりとこびりついていた。
一方で、なかのお米(玄米1合、白米2合)は半煮えという最悪の状態である。
炊き直そうと急いで別の鍋に移し、焦げた米を剥がそうとしても、
鍋底に張り付いたまま一向に剝がれない。
そのお焦げと格闘しながら、わたしは妙に納得していた。
昼間のことが頭から離れないせいだな、と。

午後、仕事をひとつ断りに行った。
わたしにとってはとても大切な、やりがいのある仕事で、
できることなら続けたかったけれど、いろいろあって「もうやめよう」と決めた。
さんざん悩んだ挙句の決断だから、後悔はしていない。
ただ、理屈では割り切れない想いが澱のように溜まったまま、胸の底にこびりついていた。

鍋から無理に剥がそうとするのはやめ、水につけてしばらく放置することにした。
焦げたご飯は、夕飯が終わった頃にはすっかりふやけて、つるりと取れた。

そうだ、ふやかせばいい。
時間をかけてゆっくりと。潤すものはなんだっていい。
とりあえず、モンブランを投入した。
読みたい本がたくさんある。映画も観に行こう。
いつかはわたしの気持ちも、つるりとなるはず。

月曜日。
ご飯は、ふっくらと炊けた。
今晩のおかずは、サンマだ。
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