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撫子の詩

四角いホットケーキ

2020/10/7(水)
玉子焼き器の 少し細長い四角の中に
わたしは「種」を流す
「種」は丸く収めてはいけない
熟した鉄の枠いっぱいに
四角く 四角く
ほんのり甘いバニラが漂うまで
弱火でじっくり焼いていく
あの頃の母が ふうっと
あの頃の台所に 現れるまで
「学校どうだった?」
「ふつう。毎日きかんといて」
ぶっきらぼうにランドセルを落とすと
瞬時に拾い上げた母が振り向いた
「ホットケーキ焼いとるで、食べなさい」
肌色の生地に
ぷつぷつ穴が開いてくる
一本だけ蕾をつけた 庭の赤いバラ
美味しそうな匂いがすると決まって覗き込む 近所の野良猫
小沢昭一のラジオは相変わらず可笑しくて
ストーヴのやかんがカチカチ音を立てている
けれど 母の顔がわからない
皺の寄ったエプロンの 小さな油じみまで
はっきりと 少女の目には映っているのに
ひっくりかえす
きつね色が 揺れている
おかあさん
あなたに会いたくて 今日もホットケーキを焼いています
四角い あなたの ホットケーキ
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